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静岡地方裁判所 昭和29年(行)5号 判決

原告 加藤栄太郎

被告 静岡税務署長

主文

被告が昭和二八年三月二〇日付をもつて原告に対し昭和二七年度分所得税の総所得金額を金五七〇、二〇〇円と更正した決定のうち、金五三六、六三六円を超える部分を取り消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は被告が昭和二八年三月二〇日付をもつて原告に対してなした昭和二七年度分所得税の総所得金額を金五七〇、二〇〇円と更正した決定のうち、金二〇万円を超える部分を取り消す。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、原告は肩書地において桐下駄の製造を業とするものであるが、被告に対し昭和二七年度分所得税に関する総所得金額を金二〇万円と確定申告したところ、被告は昭和二八年三月二〇日付をもつてその総所得金額を金五七〇、二〇〇円と更正し、この決定は同月二四日原告に通知せられたので、原告はこれに対し同年四月二二日再調査の請求をしたところ、これを棄却する旨の決定がなされ、右決定は同年七月一五日原告に通知せられた。そこで原告は更に同年八月一四日審査の請求をしたけれども、同様に棄却せられ、同決定は原告に昭和二九年四月一五日通知せられた。しかしながら、原告の昭和二七年度分所得税に関する総所得金額は前記確定申告額の通り金二〇万円で、被告のなした右更正決定金額五七〇、二〇〇円は不当であるから前記請求の趣旨記載のような判決を求めるため本訴に及んだと陳述し、被告の主張に対し、被告主張の別表の原告の資産負債増減表中、土地の価額が金二一六、〇〇〇円、建物の価額が金三十万円であることは認めるが、土地建物が増加したとの点については争う。その余の点については全部これを認める。しかして右土地については、原告は昭和二六年中に原告が原告の長男名義で買い受け、その代金も同年中に支払つたものであり、昭和二七年度中の原告の所得から支出されたものではない。又建物は原告の所属する訴外宗教団体阿気之摩利支天教会(当時は紫雲教団とも称していた。)の所有に属するもので、その建築費は信徒の寄附によつて支払われたものであり、原告の昭和二七年度中の所得から支出されたものではないと述べた。

(立証省略)

被告指定代理人は原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、原告主張の請求原因事実中、原告の総所得金額についての被告の更正決定が不当であるという点を除いて総て認める。原告は原告の昭和二七年の所得額に関する収税官吏の調査に当り、その営業の収支を明らかにする帳簿その他の資料を提出しないので、やむなく右年度の原告の所得を別表記載の資産増減から推計し、その総所得金額を金七五二、六三六円と算出した。従つて被告が右推定所得額の範囲内で原告の総所得金額を金五七〇、二〇〇円と更正した決定は正当で何らの違法はない。しかして右別表の増減表中土地の増加の部分とは、原告が原告の長男加藤栄蔵名義をもつて静岡市馬渕町六丁目三八番地の一及び同番地の二の宅地合計約一二〇坪を代金合計二一六、〇〇〇円で昭和二七年二月初旬から同年三月初旬にかけて買い受けたことをさすもので、この買受代金が原告の昭和二七年度中所得より支出されておることは明らかである。又建物の増加とは、原告が昭和二七年七月一五日頃静岡市馬渕町六丁目三七番地木造瓦葺平屋建居宅一棟建坪約一五坪を代金三〇万円で新築落成したことをさすもので、これ又原告の昭和二七年度分所得より支出されたことは明らかであると述べた。(証拠省略)

理由

原告は肩書住所地において桐下駄の製造を業とするものであるが、被告に対し昭和二七年度分所得税に関する原告の総所得金額を金二〇万円と算定して確定申告した。これに対し被告は昭和二八年三月二〇日付で原告の総所得金額を金五七〇、二〇〇円と更正し、この決定は同月二四日原告に送達せられた。そこで原告は同年四月二二日被告に対し右更正決定につき再調査の請求をしたところ、これを棄却する旨の決定がなされ、右決定は同年七月一五日原告に送達せられた。原告は更に同年八月一四日審査の請求をしたけれども、これも棄却せられるに至り、同決定は原告に昭和二九年四月一五日送達せられた。以上の事実は当事者間に争がないところである。

被告は原告の昭和二七年度における総所得金額は別表記載のような原告の資産負債の増減計算により金七五二、六三六円となるから、この範囲内で更正決定をした原告の総所得金額五七〇、二〇〇円は適法であると主張し、原告はこれを争うので、原告の昭和二七年度における原告の資産負債の増減状況についてみるに、右別表に掲げられた資産負債の増減中土地及び建物を除くその余の各項目に掲記の各金額がいずれも被告主張の通り増減したことは原告の認めるところであるから、右土地建物を除いて原告の資産増加額を算出するとその金額は金二三六、六三六円(別表差引所得残高金七五二、六三六円より土地建物の合計金額五一六、〇〇〇円を差し引いたもの。)となることは計数上明らかである。

ところで被告は原告が静岡市馬渕町六丁目三八番地の一及び同番地の二宅地合計約一二〇坪を価額二一六、〇〇〇円で昭和二七年二、三月にかけて原告の長男栄蔵名義で買い受けたと主張し、原告は右土地の価額が金二一六、〇〇〇円であること及び原告がその長男名義で買受けたことは認めるが、右買受日時並びに代金支払日時は昭和二六年中であると争うので、この点について考えるに、証人田代善吉、増田幸四郎の各証言及び原告本人尋問の結果を総合すると右土地を原告が買い受けた日時は昭和二六年一〇月頃であり、その代金は同年一一月か一二月中に原告が支払つたことを認めることができる。この点に関し右認定に反する証人望月武、加藤豊三郎、加藤武次郎の各証言は前掲証言に対比していずれも措信し難く、成立に争のない乙三号証の一及び二、証人加藤豊三郎の証言によつて成立を認め得る乙四及び六号証によつても右認定を左右することはできなく、その他右認定をくつがえすに足る証拠はない。

次に被告は原告が静岡市馬渕町六丁目三七番地木造瓦葺平屋建居宅一棟建坪一五坪を昭和二七年七月一五日頃代金三〇万円で新築したと主張するのに対し、被告は右建物の価額が金三〇万円であることは認めるが、この建物は訴外宗教団体阿気之摩利支天教会の所有に属し、この建築費も同教会の信徒の醵出によるものであると争うので、この点について考えるに、成立に争ない乙一号証の一ないし四、前記乙四及び六号証、証人望月武の証言によつて成立を認め得る乙七ないし九号証、証人望月武、加藤豊三郎、加藤武次郎の各証言を総合すると、右建物は原告において昭和二七年七月頃新築し、その費用も原告においてその頃支払つたことを認めることができる。右認定に反する証人田代善吉、石井勇記、居初泰助の各証言及び原告本人尋問の結果は前掲証拠に対照して措信し難いところである。なお、乙二号証の一及び二の記載中右建物建築工事費領収の宛名が紫雲教団代表者加藤英太郎となつている部分は、前記乙四及び六ないし九号証並びに証人加藤豊三郎、加藤武次郎の各証言に照して見ると信用することはできなく、又甲二号証の帳簿も右証拠に対比して考えると、真実に寄附しない者があたかも寄附したごとく同帳簿に多数記載してある状態であり、不正確で到底これを措信することはできない。以上の認定をくつがえすに足る証拠はない。

そうすると右建物の価額が金三〇万円であることは原告の認めるところであるから、前記当事者間に争ない原告の資産増加額金二三六、六三六円に右金三〇万円を加えた金五三六、六三六円が原告の昭和二七年度における資産増加額となり、従つて原告の昭和二七年度における総所得金額もこれと相当額であると認めるのを至当とし、右認定を左右する証拠はない。よつて被告の原告に対してなした前記更正決定の総所得金額五七〇、二〇〇円は前記認定の総所得金額五三六、六三六円を超える金三三、五六四円の部分については違法であると言わなければならない。

以上の次第であるから、被告が昭和二八年三月二〇日付をもつて原告の昭和二七年度分所得税に関する総所得金額を金五七〇、二〇〇円と更正した決定のうち金二〇万円を超える部分の取消を求める原告の本訴請求中金五三六、六三六円を超える部分についてはその理由があるから右の限度においてこれを認容し、原告のその余の請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条、九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 戸塚敬造 田島重徳 大沢博)

(別表省略)

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